無垢の木の塊から
一本一本を削りだし、
丹念に漆を塗り重ねた
スプーンです。
うつわにぴたりと沿う角度、
口に入れ、そして抜くときの
なめらかな感触にこだわり、
先端を可能なかぎり薄く
仕上げました。
木も漆(うるし)も生きています。
素材によりそうように、
逆らわず、ゆっくり、ゆっくり。
荒取り
原木の繊維を見極めて割れや節を避け、おおまかにスプーンのシルエットを切り出します。桜や栂などの仕上がりが美しく、軽くて丈夫な木を使います。
荒削り・中彫り
平ノミやナイフでざっくりと荒く形を削り出したあと、中彫りで各部分の厚みを合わせていきます。ここまでくるとだいぶスプーンらしいかたちになってきましたね。
仕上げ彫り
よく研いだ刃物で丁寧に表面を削り、先端の部分の薄さを出してゆきます。ここが、口入れと口抜けのやさしさを決める重要な工程。あせらず、慎重に。
塗り
「柄」は生漆を染み込ませて拭きあげ、「つぼ(皿状の部分)」は吸い込みが止まるまで生漆を塗ったあと、透漆を厚く塗り、一週間ほどかけてゆっくりと乾燥します。
※透漆(すきうるし)=生漆(きうるし)を精製した厚みのあるうるし。
hisacourushi.com
西村久子漆工房のご紹介
木を彫ること、手で彫ることに興味を抱き、学生時代に小さな木のスプーンを作り、初めて漆を塗りました。使ってみて驚いたのは、感じたことのない口当たりのなめらかさと口抜けのよさ。この不思議な感触を多くの人に知ってもらいたいという想いから、現在の制作活動をはじめました。
工房は築70年近くになる民家です。人や植物が環境によって変わるのと同じように、ものが作られる過程も環境に左右されます。こぢんまりとした佇まい、時がゆっくりと流れる空間は、自分にとってスプーンが生まれ育つにふさわしい場所となっています。
暮らしの中で捨てられていく多くのものたち。補修ができる木と漆のスプーンなら、ずっと長く付き合えるかもしれません。そして自分がこのスプーンを手放せなくなったように、日々に欠かせない道具として暮らしにとけ込む存在となれることを願い、制作をつづけています。
2006 大阪芸術大学短期大学部立体造形学科卒
2007 上松技術専門校卒
西村久子